二子玉川駅から徒歩2分の距離にありながら、多摩川河畔の豊かな自然が目の前に広がる「プラウド二子玉川」。野村不動産が建替組合の参加組合員として参画し、建替え事業によって再建されたマンションです。計画が実現するまでの経緯と、外観デザインや共用空間の見どころを担当者が解説します。
敷地には以前、1977年に竣工した「二子玉川第2スカイハイツ」という5階建て、総戸数97戸のマンションが建っていました。当時のマンション管理組合が老朽化に伴い建替えの検討を始めており、2012年にコンペで選出された野村不動産も交えての本格的な建替え検討がスタートしました。
当初はなかなか計画がスムーズに進みませんでしたが、2017年に転機が訪れました。世田谷区の都市計画が変更され、この辺り一帯の建物の高さ制限が45mから19mに低減される素案が公表されたのです。ただし、5年以内に建替え決議を経て建築計画を届け出れば、上限は45mのままでよいという経過措置が設けられました。
建替えに際し、以前より住戸数が多い建物計画を立て、権利者の皆様の住み替え後、余剰となる住戸を保留床として分譲することで建設費の一部を賄うことができるため、この機会を逃すわけにはいかないという気運が高まり、一気に合意形成が進みました。こうして2020年、全体の5分の4以上の賛同を得て建替え決議が成立し、総戸数132戸、12階建てのマンションへの建替えが実現することになりました。
二子玉川の華やかな街をイメージして、外観は白を基調とし、二子玉川のランドマークとなるようなランドスケープ性の高いデザインをめざしました。
建物の配棟は南向きと東向きの棟をつないだL字形で、ファサードは水面を意識したデザインを取り入れました。川に面した南面の上層階に見える縦ラインの繊細なマリオンは、川のせせらぎを表現しています。これに対し、1〜3階には白いコの字形のゲートを配し、重厚感のある構えを演出しました。どっしりした構えの上に軽やかなファサードが浮いているように見せたいと考え、熱反射ガラスの手すりも3階まではグレー、4階以上は透明に近い色を選びました。
東面もランダムで繊細なマリオンとコの字形のゲートは南面のファサードを踏襲しましたが、単調なデザインを避け、よりスタイリッシュな印象を持たせたいと考え、右端のコーナー部に変化をつけ、濃い色のガラスを採用しています。
駅側から望む北面のデザインにも気を配りました。共用廊下に面した手すりは高さ1200mm程度が一般的ですが、ここでは約1500mmの高めのガラス手すりを設置しています。プライバシー性を確保すると同時に、ガラス面を増やすことで端正で美しいファサードを実現しました。
メインエントランスは以前も川沿いの前面道路に面した南側にありましたが、敷地の北側も細い路地に面しており、お住まいの方やお客様が駅から徒歩で向かうには、主に北側からアクセスするため、南北2つのエントランスが必要でした。
メインとなるサウスエントランスは2層吹き抜けの空間で、天井は滑らかなカーブを描いています。天井をより美しく見せるため、照明計画については間接照明で構成しました。左手のニッチには川や自然をイメージしたアートを飾り、さらに手前の足元には石のアートを配しました。
サウスエントランスから奧へ進むと、共用廊下の脇に緑豊かな中庭が広がります。中庭にはベンチや屋外用コンセントを設置し、日々緑を眺めて一息つけるだけでなく、クリスマスイルミネーションなどのイベントも実施できる憩いの空間として構成しました。
ラウンジは共用廊下を挟んだ中庭の向かい側にあり、ソファに座ると中庭の緑が眺められます。面積以上の広がりが感じられるよう、壁に鏡を貼り、中庭との一体感を重視してデザインしました。
ノースエントランスはサウスエントランスに見劣りしないデザインを追求しました。エントランス脇に配置したガラス張りの集会室を一体化して構成し、庇を連続させることで大きな構えをつくり、館名板も設置しました。
集会室は会議やワークショップなど、多様な用途に対応したスペースで、お住まいの方が予約すれば外部の方も一緒に使用できます。壁面にテーブルと椅子をすべて収納可能で、一角にはキッチンも完備しています。
ノースエントランスから東棟のエレベーターに至る共用廊下は当初の計画では外廊下でしたが、屋根と壁で囲って室内化することで、住民の皆様や来訪するお客様が季節や天候に左右されず、快適に通行できる利便性と空間の上質さを高めました。
屋上には花火大会や川べりの風景が堪能できるテラスを設けました。広い空を満喫していただくために、できるだけシンプルなデザインに徹し、ベンチと最低限の足元照明を配置しています。
長年に及ぶ建替え事業には幾多の困難がありましたが、約3年ぶりに馴れ親しんだ場所での新生活を始めた権利者の方々からは多くの喜びの声が聞かれました。権利者の皆様は計画当初から、新旧の住人同士が分け隔てなく交流できるようなマンションにしたいという思いが強く、それも今回の建替えが成功した一因ではないかと感じます。
向かい側に建つ「プラウドタワー二子玉川」がそうであるように、「プラウド二子玉川」も時とともに味わいを増し、街を象徴するランドマークへと近づいていければと願っています。
※掲載の情報は、2025年7月時点の情報です
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部事業推進三部推進一課 舘野泰輝
自分よりはるかに長く地元に住み、土地の特性を知り尽くした方々のご意見を伺うことは、これまで数々携わってきた新築マンションにはない建替え事業ならではの貴重な経験で、とても勉強になりました。それをいかに計画に反映するかは非常に難しかったですが、結果的に皆様にご満足いただける建築が生まれたことに、今は安堵しています。