八幡山は、東京都心と多摩地域を結ぶ大動脈、京王線沿線の街。「新宿」駅へ17分のアクセスの良さを備えながら、街にはどこかゆったりとした雰囲気が漂っています。都心の近くにありながら自分好みのスタイルで暮らせる街として注目を集めている八幡山を歩きます。
「八幡山」駅は京王線の快速停車駅。特急や急行が停まる賑やかなターミナル駅ではなく、各駅停車だけの駅でもない。だからこそ、この街では便利さと快適さのバランスが絶妙に保たれているのでしょう。特急や急行が停まらなくても、「新宿」駅へ17分、「渋谷」駅へ「明大前」駅で乗り換えて22分です。
改札口を出ると目の前にあるのが「京王リトナード八幡山」。京王線の高架下に造られた商業施設で、スーパーマーケットの「京王ストア」を中心に、物販、飲食、サービスなど、30店ほどが集まっています。ワインとスパイス料理の「NIVAL」は、きっと常連になってしまう、居心地のよい店です。
シックな外観の「トシ・ヨロイズカ アトリエ」。見た目が美しく素材を活かしたケーキが人気。ここでしか手に入らないケーキも
駅の周辺に広がる商店街は、日常生活に必要なものが揃うだけではなく、歩いて楽しく、発見の喜びもある場所です。名パティシエ鎧塚俊彦氏の店「トシ・ヨロイヅカ アトリエ」や、人気のベーカリー「33 San jū san」といったこだわりの店が点在。個人商店では人とのふれあいも楽しめるでしょう。
ゆったりと暮らす八幡山ライフをここならではのものにしている理由の一つは、豊かな緑です。「松沢けやき広場」「将軍池広場」「烏山川緑道」。少し足を伸ばせば文豪徳冨蘆花ゆかりの「蘆花恒春園(蘆花公園)」が広がっています。コンサートなどのイベントが四季折々に開催されている「蘆花公園」は、文化の薫りと共に交流の場ともなっています。
文化といえば、八幡山のある世田谷区は、多くの文豪や芸術家が居を構え、文化を発信してきた場所です。八幡山かいわいにも「世田谷文学館」や「大宅壮一文庫」といった施設があり、また、八幡山の地名の元になったといわれる「八幡社」など、歴史を感じる場所も点在しています。世田谷文化を身近に感じられること、そして文化を通じて人とふれあうことができること。それも八幡山の街の大きな魅力です。
世田谷区民村での出張展示風景
徳冨蘆花、萩原朔太郎、斎藤茂吉、横溝正史……。八幡山のある世田谷区を語る際に欠かせないのがこの地を愛した文学者たち。作品に登場する世田谷の風物から、読者はこの地の魅力を発見し、世田谷愛はさらに深まって行きます。そんな世田谷ゆかりの文学と私たちを橋渡ししてくれる施設があります。「世田谷文学館」です。
「多くの文学者が居を構えた世田谷には世田谷固有の文学風土があると当館は考えています」と、学芸員の佐野晃一郎さんは話し始めました。
「その世田谷固有の文学風土を保存・継承し、まちづくりに活かしていくというのが当館の基本理念のひとつです。世田谷区ゆかりの文学者の原稿、書簡、図書などの資料を収集し、保存・整理し、調査研究しています。そしてそれらを企画展などで皆さんに見ていただいています」
「世田谷文学館」は1995年にオープンしましたが、今までにどのような企画展を開催してきたのでしょうか。佐野さんに資料を見せていただきましたが、そのラインナップに驚きました。「月に吠えよ、萩原朔太郎展」「林芙美子 貧乏コンチクショウ」は、対象はクラシックな文学者ながらタイトルも展示内容も斬新。『あしたのジョー』などのコミック、『ウルトラマン』などの特撮や映画も扱ってきました。ミュージシャン宮沢和史氏の企画展では音楽をどのように展開したのでしょうか。他にも興味をひかれるものがたくさんありましたが、そもそも音楽やコミックや特撮をなぜ文学館で扱うのでしょうか。
「映画もテレビもマンガも歌も、その土台になっているのは言葉ですよね。作者の考え方や思想を言葉で伝えることが文学だとすると、マンガだって歌だって文学です。そう考えると文学の可能性は大きく広がり、私たちの目に世界はもっと豊かに見えてきます。その喜びを皆さんに知っていただきたい。その想いでこのような企画展を開催しているんです」
「世田谷文学館」には「ほんとわ」と名付けられたライブラリーもあります。「ほんとわ」にはベビーとキッズのための優しい雰囲気のエリアがあり、絵本や児童文学を親子でゆっくりと楽しむことができます。
お話会や工作イベントなども開催。また、文学館が開発した出張展示セットは、世田谷区内はもちろん、全国の学校などで利用されている
「『世田谷文学館』は展示室以外は無料で利用できます。『ほんとわ』は幼稚園や小学校の帰りに親子で寄ってくださる方が多いです。日本庭園に面した『くつろぎスペース』には持参された本を開いて読書されている方もいらっしゃいます。ぜひ当館を普段使いしていただきたいですね」
文学館のオリジナルグッズなどを販売しているミュージアムショップ。
会員制サービス「セタブンパス」は、年2〜3回の展覧会チケットサービスやグッズの割引などの特典つき
「世田谷文学館」は、文学の枠を広げる企画展を次々と世に問う先鋭さと共に、誰にでも門戸を開く優しさがあります。これからも、優しいハートと驚くような切り口で、この街の魅力を伝えてゆくことでしょう。
※掲載の情報は、2024年5月時点の情報です