渋谷は国際的に注目されている街。繁華街のイメージが先行していますが、実は渋谷にも落ち着いて暮らせるエリアがあります。渋谷駅、南青山七丁目交差点、恵比寿駅を結ぶほぼ三角形のエリアもその一つ。住所でいうと「渋谷区東」の辺りです。従来からの落ち着いた雰囲気に、進行中の再開発によって新たな魅力も加わったこのエリアを中心に、渋谷の街を歩きます。
渋谷では今、「100年に一度」と言われる規模の再開発が進んでいます。駅はより便利に美しくリニューアルされ、ビル群は次々と建て替えられて新時代のランドマークとなり、地上229メートルの展望フロアなど魅力的な施設も多数誕生。国の内外から多くの人たちを惹きつけています。「渋谷区東」周辺でも再開発は進行中で、「渋谷ストリーム」「渋谷ブリッジ」などがオープンし、その様相は一変しました。
再開発によって利便性の向上と共に躍動感も感じさせる「渋谷区東」ですが、神社や史跡、学校などが多い落ち着いたエリアとして知られてきました。渋谷・青山の総鎮守「金王八幡宮」、約4000坪の緑豊かな社地に鎮座する「渋谷氷川神社」、「國學院大學」と「実践女子大学」。今も歴史と文化が息づいています。
その一方、高感度な人たちに好まれてきた街でもあります。お洒落なショップやレストランが点在し、地上100メートルの絶景レストラン「ア ビエント」、上質な旬の食材を最高の技で味わう江戸前鮨「鮨 以とう 一貫」、バルセロナで一番おいしいと言われるパエリアを提供する「チリンギート エスクリバ」など、世界の食が集まる渋谷ならではの店が人気です。また「渋谷区東」は恵比寿と代官山へ徒歩でアクセス可能な好立地。少し足を延ばせば、表参道、南青山、中目黒、広尾へも。代官山でショッピングの後、恵比寿でディナー、ゆったりと歩いて自宅へといった暮らしも夢ではありません。
「鮨 以とう 一貫」。時代に左右されない、江戸前鮨を継承する本物の技。心を満たす鮨と、日本のおもてなしが評判
「チリンギート エスクリバ」。絶品パエリアを中心としたシーフードメニューと、ワインやサングリアなどバラエティ豊かなドリンクを堪能できる
そんな「渋谷区東」は渋谷駅の新南口からが便利。「渋谷ストリーム」「渋谷ブリッジ」「Shibuya Sakura Stage」のオープンによって生まれ変わった新南口は、「渋谷区東」方面への心躍るエントランスです。界隈を流れる渋谷川には川沿いに遊歩道が整備され、恵比寿へ代官山へと楽しく散策できるようになりました。
「渋谷区東」は、ヒト、モノ、コトが集まるビッグターミナル渋谷とハイセンスな恵比寿・代官山エリアの両方を使いこなせるという魅力を備えながら、閑静な佇まいも維持している、希有な街といえるでしょう。
「植物園」というと、郊外の広大な敷地にたくさんの花や木が植えられているところを想像するのではないでしょうか。渋谷駅から徒歩約12分、「渋谷区東」にある「渋谷区ふれあい植物センター」は、そんな私たちの想像を超えた「都会」の「小さな」植物園です。
「こんな都会の真ん中に植物園があるなんて、驚かれたのではないでしょうか。当センターは日本で一番小さな植物園です。敷地でいうと、テニスコート2面分より少し広いくらいしかありません。小さいけれど、渋谷という都会の象徴のような場所にありますから、ここだからできること、ここならではの役割があるのではないかと考え、日々活動しています」
そう話してくれたのは、副園長の齋藤理恵さん。では「ふれあい植物センター」ならではの役割とはどのようなものなのでしょうか。
「一つは『体験型の植物園』ということですね。珍しい植物をたくさん集めて見ていただくというのは素晴らしいことです。でもそれには広い敷地が必要ですから当センターにはできません。では何が、と考えたときに気付いたのは、都市に生きる私たちと自然とをつなぐハブのような存在になるということです。当センターを媒介に人と植物が深く交わる、具体的には、植物を育てたり収穫して食べたりといった体験ができる植物園を目指したんです」
1階フロアの中央には洞窟が。ここでは植物の体内を流れる電気信号を変換した音楽を聴くことができる。
2階のライブラリーには農や食の関連書籍が揃い、自由に読むことができる
「育てる」と「食べる」が「ふれあい植物センター」の二大テーマ。園内にある植物のほとんどが食べられるもので、マンゴー、ライチ、パイナップルといった果物と、ラベンダー、ローズマリー、カモミールなどのハーブを中心に、100種類以上育てています。
「レタスとハーブは2階のカフェのメニューで使っています。レタスをサラダに入れたり、ハーブをドリンクに使ったり、ですね。果物はカフェで提供するほどの量が獲れないので、収穫した際に1階の受付横で試食というカタチで食べていただいています」
1階の受付。奥のショップでは、ベランダ菜園向けの小さなコンポストや種などを販売している。毎週土日には有機野菜を販売
多くの植物を育てるにはたくさんの手間がかかりますが、それにはボランティアの力を借りています。
「ボランティアさんと一緒に育てているという感じですね。草取りや植え替えといった土に触れる作業はもちろん、蒸留器を使ってハーブでフレグランススプレーを作ったりといった加工作業もあります。やりたいことに合わせて参加していただいています」
屋上ではホップやハーブの他に茶も育てている。明治時代、渋谷にはお茶畑が広がり「渋谷茶」が栽培されていた
ボランティアは発生する作業に合わせて随時募集。現在、小学生から80代の方まで126名が登録しているそうです。ひとつの目標に向かってみんなで作業していると、知らずしらずに仲間意識が芽生え、コミュニティが育ってゆきます。コミュニティの場となることも「ふれあい植物センター」の役割の一つだと齋藤さんは話します。家庭菜園講座、酒造り講座、ハーブを使った料理教室などのイベントもほぼ毎月開催しています。
ビールの原料となるホップもボランティアと共に育てている。年末には参加したボランティアを集めて醸造したビールの試飲会を開く予定
「まだ具体的には始まっていないのですが、渋谷区中の小・中学校に菜園を造るプロジェクトを考えています。子どもたちと手を携えて、都会で植物を育てて食べる素晴らしさを渋谷区中に広めてゆきたいんです」
「渋谷区ふれあい植物センター」は日本一小さな植物園。しかし大都会・渋谷にあって、その存在はとても大きいといえるでしょう。
取材協力:渋谷区ふれあい植物センター
※掲載の情報は、2024年9月時点の情報です