業界のセオリーを打ち破る 握り25貫コース誕生の背景 名だたる寿司店がしのぎを削り合う、東京・銀座において、2018年のオープン以来、その名を轟かせ、現在も予約困難と囁かれる『はっこく』。その最たる特徴は、握り25貫で構成されるコースのみで勝負しているところでしょう。つまみから始まり、徐々に握りに移行する高級寿司店の定番スタイルに一石を投じるアイデアは、食通から絶賛されはっこくと、大将・佐藤博之さんの名を世に知らしめました。 佐藤さんが寿司業界で異端児といわれる理由は、その一風変わったキャリアにもあります。高校卒業後、バンド活動の傍らのアルバイトから飲食業界に入り、そこでサービス業の楽しさに目覚め、店長にまで上り詰めたものの25歳で方向転換し、寿司の修業を始めたのです。「対面でお客様にサービスをするカウンター商売は、究極のサービス業だと思ったんです。でも当時は何の知識もなくあの『久兵衛』の名すら知りませんでした」 渋谷神泉の名店『秋月』の扉を叩き、修業を積むこと6年。その後、初めて大将を務めた『鮨 とかみ』ではわずか半年でミシュランの星を獲得しました。まさに異例の快挙を成し遂げたのです。 その店をあっさり退き銀座ではっこくをオープンすると、またしても業界の話題をさらう……。類まれな才覚とセンスは誰しもが認めるところですが、「どうしたらお客様に楽しんでいただけるかを考えているだけです。握り25貫コースについても、寿司店を選んでいらっしゃるお客様は、寿司を思いっきり堪能したいのでは? と思ったもので」とサラリ。寿司寿司とは何だろう?「人を幸せにするもの」その信念で拓いていく道美が生まれる瞬間無駄なものを一切置いていない、スタイリッシュなカウンター。ここが佐藤さんの主戦場だ。店にはさらに二つのカウンター部屋があり、それぞれの部屋をひとりの職人が担当するマグロの突先の巻物から始まり、玉(ぎょく)で締めくくる握り25貫コースで供される握りの一例。上から熊本県天草の小肌。酢で締めてからひと晩寝かし、しっとりとした食感に。長崎で揚がった車海老。和風クレームブリュレのような味わいの玉もはっこくの名物28 SPRING 2022
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