砧

世田谷区 砧

国分寺崖線が広がる豊かな緑と3つの商店街が作り出す賑わい。
ふたつの魅力に満たされた街・砧。今月は、世田谷文化を継ぎ、次代を育む砧の街をご紹介します。

1 砧の街を歩く

ウルトラマン商店街を抜けて砧公園へ。
活気と静寂を享受する街。

世田谷区南西部に位置する砧。6丁目にある祖師ヶ谷大蔵駅は、2018年3月に小田急線複々線化工事が完了し、ラッシュ時の増発や所要時間の短縮など、ますます便利になりました。

駅の改札を出ると、南北に広がるのは「ウルトラマン商店街」。1963年に創業した円谷プロダクションの本社が砧にあったことから、ウルトラマン誕生の地として、2005年に祖師谷昇進会・祖師谷商店街・祖師谷みなみ商店街の3つの商店街の総称となりました。駅前の広場には、シンボルとなるウルトラマン像が立ち、全長約3kmの通りに400以上の店が連なる活気ある商店街です。

小田急線が開通した2年後となる昭和4年開業の老舗洋菓子店から、素材にこだわった新店まで、商店街に並ぶ店舗はバリエーション豊か。3つの商店街がスクラムを組み、子どもたちが列を成すウルトラヒーロー握手会、花笠パレードやミニSLが運行される祖師谷ふるさとフェスティバルなど、住民が参加できるイベントも毎年行われています。

3つの商店街がスクラムを組んだ
発見に満ちた通り。

手作りハム・ソーセージの店「エッセン」

商店街の一つで、駅南に位置する祖師谷みなみ商店街は、その先にある日本大学や緑豊かな砧公園に向かう人たちで賑わう商店街です。100以上もの店が建ち並ぶなか、地元の人たちに広く愛されているのが、ホームメードソーセージ「エッセン」。合成保存料を使用しない自家製のハム・ソーセージは、塩漬して熟成させた後、桜のチップでスモークしたものです。
彩り豊かでおいしいと評判なのが、クレープ専門店「Creperie Tirol(クレープリー チロル)」。北海道産の小麦「きたほなみ」を使用したモチモチのクレープで、特に季節限定のクレープは、まるでフルーツの花束のようです。

クレープ専門店「クレープリー チロル」

賑やかな商店街を抜け、砧公園に向かって進んで行くと、バインミー(ベトナム風サンドイッチ)の店「アンディー」があります。オリジナルのバケットにスパイスの効いた具材を挟んだバインミーは、砧公園散策のお供にもオススメで、お昼時までに売り切れてしまうメニューもある人気店です。

「アンディー」のバインミーはテイクアウトも可能

さらに歩みを進めていくと、そこは広大な緑の集積地、砧公園。かつて豊かな自然に惹かれ多くの文化人が集い、世田谷文化の礎を作った場所のひとつです。約40万㎡の敷地には軟式野球場や小ぶりながらサッカー場、サイクリングコースなどの施設が充実。ファミリーパークには、お弁当を広げる家族の姿や、敷き詰められた芝生の上を元気よく走り回る子どもたちの姿も見られます。

砧公園の中のバラ園では、春だけでなく秋も楽しめる
芝生が敷きつめられた砧公園のファミリーパーク

砧公園に隣接する総合運動場には、トレーニングルーム(初回はガイダンスの受講が必要)や個人で使用できる陸上競技場、弓道場(共に要予約)などがあり、2020年に開かれる東京オリンピック・パラリンピックでは、人数、種目ともに世界一の参加国となると予想されるアメリカのキャンプ地となることが決まっています。

2 砧の風

区民のために生まれ、
区民が育む、緑の中の美術館

砧公園の一角にある世田谷美術館は、1986年開館。美術館の教育普及事業がまだ珍しかった時代に、全国に先駆けて“一部の美術愛好家だけでなく、全区民に必要とされる美術館を”という目的をもって設立されました。
「それまで美術館は、展覧会を開いてお客様がそれを観に来る場所でしかありませんでした。世田谷美術館は、生活に根ざし、地域の誰もが生活の一部として美術に触れられる、というコンセプトを掲げて開館したのです」と話すのは、世田谷美術館学芸部教育普及担当マネージャーの東谷千恵子さん。
緑豊かな公園に美術館を建てたいと選ばれたのが、砧公園。同じく自然豊かで、ゴッホ作品のコレクションで有名なオランダ・アムステルダム郊外の国立公園内にある「クレラー・ミュラー美術館」を参考にしたそうです。
「公園の中に溶け込むような美術館にしたいと、周囲の木々よりも高さが低い2階建てになりました。当時の館長がたまたまラテン語の本から見つけたのが、『芸術と自然はひそかに協力して人間を健全にする』という言葉。これこそ世田谷美術館の目指すところだと、エントランスの大理石には原文が刻まれています」

公園の緑の風景に溶け込むように建てられた世田谷美術館

世田谷美術館の大きな特徴が、「美術鑑賞教室」と「美術大学」という講座です。
「世田谷区立の小学校4年生の子どもたちがすべて、授業の一環として来館するのが『美術鑑賞教室』。開館して30年以上経ちますから、現在40歳以下の世田谷区立小学校出身者は、全員『美術鑑賞教室』に参加していることになります。そして、区内の大人が自由に本格的に美術を学べる場が『美術大学』です」
「美術大学」は毎年5月から12月まで、週2回、鑑賞講義や実技など、美術を総合的に学んでいく講座。毎年60名募集ですが、2~3倍の応募があるため、抽選が行われるそうです。

館内にあるフランス料理レストラン「ル・ジャルダン」への美しいアプローチ
オープンカフェ「セタビカフェ」ではドリンクのテイクアウトも。

知識を教えるより、
子供たちの感動に耳を傾ける

左の恐竜は、子どもたち20人による作品

「美術鑑賞教室」で、生徒4~5人に対し、1人の割合で館内を案内するのは鑑賞リーダーと呼ばれるボランティア。
その多くが「美術大学」出身者です。
「鑑賞リーダーは、子どもたちに教えるのが主ではなく、その子がこの作品を観て何を感じたか、なぜそう思ったかをちゃんと聞いてあげるのが仕事。アートの鑑賞はその人の自由で、正解がないことを、実際に子どもたちに体験してもらいたいのです」

館内のデザインは公園の緑の景色と一体化できるよう工夫されている

鑑賞リーダーの発案から生まれたのが、毎週土曜日に開かれている「100円ワークショップ」。その時に開催されている美術館の企画展にちなんだもの作りを、100円で、未就学児から大人まで誰でも予約なしで参加できるというものです。
「鑑賞教室に参加した子どもたちが、翌日、また来てくれたことがありました。でも、館内の展示は前日と同じ。対応した鑑賞リーダーが、そういう子どもたちがすぐに参加できるワークショップがあれば、前日とはまた違った体験ができて美術館って楽しい場所だと思ってもらえると提案し、始まったんです」

世田谷美術館学芸部教育普及担当マネージャーの東谷千恵子さん
「100円ワークショップ」で作られた作品。

現在、鑑賞リーダーをはじめとした世田谷美術館のボランティア登録者数は450人。美術館での選考はいっさいせず、申し出れば誰でもなれます。中には、週5日美術館に来ているというボランティアもいるそうです。
「美術館は、文化コミュニティ拠点だと思うんです。地域に根ざした美術館は、地域の人に喜んでもらえる美術館でなくてはならない。ボランティアはそんな美術館を“一緒につくる”人たち。ここに来れば誰かがいて、年齢に関係なく対等に話ができる。スポーツジムやママ友など、人によってコミュニティの場所はさまざまですが、世田谷美術館は、そういった居場所の選択肢の一つでありたいと思っています」

世田谷美術館
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:午前10時~午後6時
休館日:月曜日(祝日の時はその翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)

写真:薮崎めぐみ

3 街のおさらい

※掲載の情報は、2018年11月時点の情報です