砧

武蔵小金井が、いま、大きく生まれ変わろうとしています。2009年にJR中央線の高架化が完了して街の南北がつながり、駅前では現在、大規模な再開発が進行中。アクセスが良く緑が多いと、かねてから人気のあった武蔵小金井が、新しい時代を迎えています。

1 武蔵小金井の街を歩く

駅前再開発で進化する街の
人と自然の「つながるチカラ」

新時代の武蔵小金井。それは改札を抜けて南口へ出た瞬間から感じることができます。目の前にクリーンなデザインと緑が印象的なバスターミナル。それを取り囲むように、全面ガラスとモダンなデザインが目を引く文化施設・小金井宮地楽器ホールと、nonowa武蔵小金井SOUTHやアクウェルモールといった商業施設が並んでいます。さらに角を曲がるとフェスティバルコートと名付けられた広場。その向こうにはイトーヨーカドーが控えています。

小金井宮地楽器ホール(右)とアクウェルモール(左)

大きく生まれ変わった武蔵小金井駅の南口には、暮らしの便利と賑わいが詰まっています。取材で訪れた日には、間伐材から作った積み木で遊ぶイベントが行われていて、子どもたちの笑顔と幸福感がガラス窓を通して街路を歩く人々にまで伝わっているようでした。また、各商業施設は活気にあふれ、飲食店からは美味しそうな匂いが漂ってきます。

小金井宮地楽器ホールのイベントスペース

現在、武蔵小金井駅南口では、第2地区の再開発プロジェクトが進行中です。第1地区の再開発で誕生したフェスティバルコートと連続するかたちで広大なムサコヒロバが設けられ、その横に住宅を併設した大型商業施設が誕生します。2020年夏の完成後、武蔵小金井の街は、さらなる魅力と賑わい、活力を備えることになるでしょう。

第2地区の完成予想図。

水と緑の街を活かす
新しい街づくり

「小金井」は「黄金に匹敵する価値がある水が湧き出る地」という意味で名付けられたと言われています。これは諸説ある内の一つですが、清らかな水があちらこちらから湧き、それを取り巻くように緑が広がり、豊かな自然が人々を引き付けてきたという小金井の特徴や歴史を思うと、「黄金の水」説にはロマンとともに説得力も感じます。

小金井公園、武蔵野公園、野川公園…。武蔵小金井には大きな公園がいくつもあります。小金井公園は上野公園の約1.5倍の広さを持ち、桜の名所としても有名です。

「黄金の水」は人と人をつなげます。武蔵小金井の南口から徒歩数分のところに「六地蔵 黄金の水」と呼ばれる井戸がありますが、小金井の湧水を汲むことができるこのスポットでは、近隣の人たちが水を汲みながら交流を深めています。

武蔵野の自然と湧水という大きな資産を受け継ぎつつ、再開発によって前に進む武蔵小金井。そのよき伝統は未来へとつながって行くことでしょう。

六地蔵 黄金の水

2 新しい風

江戸東京野菜でつながる
食の伝統と未来

「東京にも伝統野菜がある」。そういうと意外に思われる方が多いかもしれません。京野菜や加賀野菜に匹敵する東京が誇る伝統野菜、それが江戸東京野菜です。

江戸東京野菜は、江戸時代から1960年代ころまで江戸・東京の各地でつくられていた、長い歴史を持つ野菜です。当時の人々の暮らしを支え、食文化を育んできたものでもありましたが、高い生産性や安定した品質を目指す風潮の中で、次第に姿を消していきました。

しかし、このままではよき伝統が滅びてしまうと、1980年代の末ごろから、東京の各地で復活を目指す試みが始まりました。
なかでも積極的に取り組んだのが小金井市でした。江戸時代中期、小金井の農家は大根や青菜などを栽培して江戸市中に出荷していました。復活に力を注いだのは、そんな歴史もふまえてのことでした。

香りがよく、やわらかい馬込三寸ニンジン
伝統小松菜

食育・野菜料理コーディネーターとして活動する酒井文子さんは、この小金井市の江戸東京野菜復活プロジェクトに2006年から関わっています。

江戸時代後期からの伝統を持つ亀戸ダイコン
油料理との相性がよい寺島ナス

当時、酒井さんは江戸東京野菜を知りませんでした。 「初めて食べたのは『伝統小松菜』と『亀戸ダイコン』でした。伝統小松菜は、『おいしい!』と感動しました。亀戸ダイコンは『なつかしい』と感じる味。どちらも野菜本来の食味があり、私はすっかりとりこになりました。以来、農家さんとの関係づくりから、イベントの計画と実施、メニューの考案、料理教室や講演会まで、あらゆることに関わってきました」

このプロジェクトは、一から始まった事業です。スタッフやJAの担当者が農家を1軒1軒まわって説得し、生産してくれる農家をやっと確保したそうです。市内では誰も知らなかった生産法は、東京都の農業試験場の方に指導してもらいました。

こうして生産にメドが立ちました。次は、江戸東京野菜を知ってもらうことです。

「きっかけは、江戸東京たてもの園で行った『江戸雑煮を食べる会』でした。江戸東京野菜を使ったお雑煮を振る舞うイベントで、私もレシピ作りに関わっています。これが評判になったので、次に、市内の飲食店で江戸東京野菜を使ったお弁当や料理を提供するイベントを行いました」

イベントは大人気でしたが、2015年をもって休止し、現在は、市内の飲食店それぞれのペースで江戸東京野菜の料理を提供する、というかたちに変わっています。

「イベントではどうしても一過性のものになってしまいます。私たちは『小金井に来たらいつでも江戸東京野菜の料理が食べられる』というようにしたいんです」

小金井を
江戸東京野菜の街に

現在、いくつかの江戸東京野菜は小金井市の学校給食で使われていて酒井さんは、小中学校で食育の授業も行っています。その際、子どもたちに江戸東京野菜と一般に流通している野菜の生での食べ比べをさせているそうです。例えば大根では、亀戸ダイコン、伝統大蔵ダイコンといった江戸東京野菜と、一般的な青首ダイコンを用意します。

フランス料理の店「ヴァン・ド・リュ」の「亀戸ダイコンの煮込み」

「『どれが好き?』って聞くと、一番人気は伝統大蔵ダイコンなんです。次は亀戸ダイコン。これは辛みが強いんですが、『辛さの中に味がある』なんて言うんですよ。子どもなりに味がわかっているんですね。学校の栄養士の先生のお話だと、食育の授業の後は給食の食べ残しが減るそうです」

食育・野菜料理コーディネーターの酒井文子さん

「2015年までの10年間で江戸東京野菜は小金井の人たちにある程度知れ渡ったと思います。料理教室で使い始めた当初は、生徒さんは誰も知りませんでした。今では教室のほとんどの生徒さんが、見たことがある、食べたことがあると言いますね」

江戸東京野菜の料理店には、目じるしのバッチが

酒井さんは「江戸東京野菜を小金井市の食文化の要に育てたい」と話します。小金井市では、江戸東京野菜を使ったメニューを積極的に提供している飲食店を江戸東京野菜使用店として認定し、現在15店舗が認定されています。また、市内にあるJAの直売所にも出荷され、市民の方が購入することもできます。

小金井市は都心に直結するアクセスの良さを備えながら、豊かな緑と清らかな水に恵まれ、また、武蔵小金井駅南口で進行中の再開発事業が象徴するように、未来志向の街でもあります。江戸時代からの伝統を未来へとつなぐ江戸東京野菜と共にこれからも発展を続けていくことでしょう。

JA東京むさし 小金井ファーマーズ・マーケット

写真:薮崎めぐみ

酒井文子(江戸東京野菜)
小金井市市民部経済課(江戸東京野菜)

3 街のおさらい

※掲載の情報は、2018年12月時点の情報です