グッドデザイン賞受賞レポート仮設HUB拠点
〜まちへの新しい挨拶の形〜【後編】

大規模開発「プラウドシティ日吉」の、長期にわたる工事現場の遊休部分を、地域活動の拠点(仮設HUB拠点)として開放する試み「吉日楽校」は、2018年夏にいよいよオープンの日を迎えました。
後編では“大人から子どもまでが一緒になって楽しく学べる場所”というコンセプトのもとに名付けられた「吉日楽校」が、実際にどのように運営され、どんな関係がそこから生まれたのか、ご紹介しましょう。

1 子どもから大人まで“楽しく学べる”場所

一人でも皆でも使える自由自在のオリジナル家具

計画初期から野村不動産と共にこのプロジェクトを推し進めてきたのが、設計事務所オンデザインパートナーズの千代田彩華さん。現地運営を担当し、最も長い時間を「吉日楽校」で過ごしたスタッフです。

まず、オンデザインパートナーズが手がけたのが、設計会社ならではの技術を活かした空間づくりです。暫定利用ということで、建物ではなく、いろいろな用途に使え、組み合わせても使える家具で居場所を作ることにしました。

素材はやさしい手触りの木がメイン。遊び心を加えたデザインのオリジナル家具は、テーブルにもなれば椅子や物を載せる台にもなります。単独での使用はもちろんのこと、組み合わせても使えるよう高さなども考慮しました。さらに、テントや折り畳みチェアなどのアウトドアグッズとも組み合わせられるものにしています。
家具のサイズは小さくても、一人、二人の少数はもちろん、ママ友の集まりや地域密着イベントなどの大勢に至るまで活用でき、思い思いに使ってもらえる心地良い空間が生まれました。

2 地域の人たちに知ってもらうために

まちを育てるための地域の関係づくり

「吉日楽校」は2018年7月にオープン。地域の人たちが一丸となってまちを育てていくために、「種まき期」「育てる期」「自走期」の3つのフェーズに分けて取り組むことにしました。約3ヶ月にわたる「種まき期」には、地域の人たちに足を運んでもらうため、月に数回イベントを実施しました。

イベントは地元の大学や農家の方と連携し、日常ではなかなかできない体験から、地域で主体的に何かを始めるきっかけを生み出す土壌をつくっていきました。

※2018年8月、9月の情報です。

さらに毎週火曜日をopen dayとして開放。この日はイベントなどは行わず、広場のように日常的にこの場所を利用してもらえるよう、入り口には手作りのゲートも作りました。
そして、千代田さんは、入口付近を通りかかる人たちが入りやすいよう、次々と声をかけていきました。すると、子どもの遊び場を探していた親子や、近所づきあいをしたいという年配のご夫婦などが入ってきて、そのご夫婦は次に来るときには孫を連れてくるなど、この場を活用してくれる人たちが増え、世代を超えたさまざまな人たちの交流が生まれるようになりました。

3 次々と生まれた自主企画

イベント参加者から生まれた「防災ピクニック」

10月からは「育てる期」として、徐々に増えてきたリピーターの方々に「なにかはじめてみたいこと、ありませんか」と積極的に声をかけていきました。

その中からあがってきたのが「ずっと防災について気になっており、この場を使って実験してみたい」という、ある一人のお母さんの声。その意見に賛同した人たち同士でミーティングを重ね、「防災ピクニック」と名づけた集まりがスタートしました。いざ!という時に、自分や家族を守るために必要なことを、“ピクニック”という形で楽しみながら実際に試してみるという企画です。

日頃備えている非常グッズを使ったり、非常食を食べてみたりして、使いやすさはどうなのか、食べやすいものかどうかを実際に試してみました。そうやって、どうすれば十分な備えになるか、防災への考え方を地域のお母さんたちみんなで考えていきました。

みんなで作り上げた「吉日祭り」

このような動きをきっかけに、「吉日楽校」にやってくる人たちにやってみたいことを問いかけたところ、フリーマーケットをはじめ、ピラティスの資格を持っている人からはストレッチ教室、美容師さんから吉日美容室などの案が次々と寄せられる結果に。

そして、11月25日には地域の人たちの“なにかはじめてみたいこと”が盛りだくさんとなった「吉日祭り」を開催。入場者数はなんと約500名を数え、楽しむ側、楽しませる側が渾然一体となり、皆でお祭りをつくり上げることができました。

4 開発を機に地域の関係性を高める

愛着を持ち、積極的に
まち作りに関わるためのプロジェクト

「自分の住むまちを盛りあげていく活動をしたかった」「コミュニティを広げたい」「まちで楽しいことに参加したい」という思いが予想以上に強いことが、防災ピクニックや吉日祭りを通してわかってきました。
それと共に、地域にはさまざまなスキルや能力を持った人たちがいて、その力を発掘できたことも大きな収穫でした。

「吉日楽校」ができたことにより、さまざまな人たちがつながって新しい関係が生まれ、まちを育てていく機運が高まった――そんな確信が得られたのもこの頃でした。

まちの未来につながる新しいコミュニティづくり

マンション建設などの大規模開発を機に、まちは再活性化の転機を迎えます。マンションの建物が完成する前に、以前から住んでいる地域の人たちと、これからここに新しく住む人たちがつながることができるHUBとなる拠点をつくることは、マンションが完成して新しいコミュニティが生まれた時には、既に共に地域を育て、より住みやすいまちを作っていく基盤ができていることになります。

「吉日楽校」として使用していたエリアも、いよいよ工事が始まるため、形を変えて「吉日楽校」は継続していきます。工事の関係で規模は縮小しますが、さまざまな活動を通して先輩となった人たちが、今度は地域の担い手となって活動を続けていく予定です。そしてそこに、「プラウドシティ日吉」への入居者も加わることで、今後のより良いコミュニティ形成が目指せるものと期待しています。

千代田彩華

<プロフィール>
2018年、住宅を中心に、まちづくり、家具など幅広く展開している設計事務所、株式会社オンデザインパートナーズに入社。主にまちづくりを担当している。

<グッドデザイン賞とは>

グッドデザイン賞は、さまざまに展開される事象の中から「よいデザイン」を選び、顕彰することを通じ、私たちの暮らし、産業、そして社会全体を、より豊かなものへと導くことを目的とした公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」です。グッドデザイン賞を受賞したデザインには「Gマーク」をつけることが認められます。「Gマーク」は創設以来半世紀以上にわたり、「よいデザイン」の指標として、その役割を果たし続けています。

受賞作品一覧はこちら

< 仮設HUB拠点〜まちへの新しい挨拶の形〜前編

※掲載の情報は、2019年6月時点の情報です