山手線の内側にありながら古きよき時代の風情が色濃く残る文京区千駄木。
この街の「文化の薫り」を守り続けている人たちがいます。

1 千駄木の街を歩く

懐かしさと新しさの調和した
やすらぎの街

森鴎外記念館

東京メトロ千代田線の千駄木駅から地上に出ると、すぐに「団子坂下」という交差点が見つかります。文学ファンならご存知でしょう、団子坂は、森鴎外や江戸川乱歩など、多くの文豪の作品の舞台となった坂です。この坂の途中にあるのが、森鴎外の旧居跡地に建てられた「森鴎外記念館」。森鴎外の資料に加え、文京区ゆかりの文豪の資料も揃った、「文化の街、千駄木」らしい施設です。館内にあるカフェは居心地よく、読書をしながらゆったりと過ごすのに最適です。

モリキネカフェ

森鴎外のほかにも、夏目漱石や高村光太郎など、この界隈にはたくさんの文人が住んでいました。東京大学に近く、根津神社などの寺社が多く静かなこの街は、彼らが創作活動を行うのに最適な場所だったのでしょう。現在も、交通アクセスに優れ買い物に便利でありながら落ち着いた風情を醸すこの街は、住宅地として不変の魅力を保っています。

根津神社
菊見せんべい総本店

千駄木駅からJR日暮里駅方面に進むと、有名な「谷中ぎんざ」商店街があります。個人商店が連なるここは、地元はもとより他の街からの買い物客も絶えない活気ある商店街です。それは、商店街を「文化」ととらえ、時代の流れの中でその役割や価値を模索し続けているという、真摯な姿勢からもたらされるものでしょう。近年はカフェや個性的な雑貨店なども増えました。日々魅力を増し続けるこの街は、新たな商文化の発信地ともなっています。

住めば住むほど味わい深い街

上野桜木あたり

「文化」といえば、この界隈がアートの拠点でもあることを忘れるわけにはいきません。点在する、古民家や蔵を改築したギャラリーやアートスペースは、懐かしさと新しさが調和し、時代を超えて輝き続けるこの街を象徴するものといえるでしょう。

SCAI THE BATHHOUSE Photo by Norihiro Ueno. Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

2 新しい風

谷根千は東京に広がる豊かな森

アメリカ生まれの日本画家、アラン・ウエストさんは谷根千エリアで暮らし始めて23年。元自動車整備工場を大胆に改装し、アトリエとして使っています。アランさんの眼にこの街はどう映っているのでしょうか。

「実は私、日本画家を目指して日本に来たわけじゃないんです。ずっと植物の絵を描いているんですが、自分の表現に相応しい絵の具はアメリカにはなくて、調べたら日本にあった。その絵の具を扱っている画材屋さんは日本に9軒あるんですが、そのうちの4軒が谷根千にある。だからここにアトリエを構えたんです」

「正直、画材のことしか頭になかったのですが…」と申し訳なさそうに話すアランさんですが、住んでみてこの街に惚れ込んだといいます。

「ここは私には理想の社会に思えます。赤ちゃんからお年寄りまで、いろんな世代の人が住んでいて、家族構成もいろいろで、おそらく収入も違う。東大や藝大に近いから、学生さんや芸術家もいる。もうひとつ面白いのは、地元で生活して地元で仕事してる人が多いってことです。お店も個人商店が多い。だから地元にお金が留まり、地元の人たちに還元される。これは素晴らしいことだと思うんです」

この街の人たちは、ずっと昔から、多様性を認め合い、支え合いながら暮らしてきたんですね。そのことを、植物を描く画家の アランさんは自然界に例えて表現してくれました。

「この街は『豊かな森』ですね。同じ木ばかり生えている森は害虫の被害に遭いやすいです。人間の社会も同じ。いろんな人がいるから健康なんです」

アランさんもこの豊かな森を構成するひとり。愛する街のために、アトリエの向かいにベンチを造りました。

いろんな世代いろんな職業の
人たちが支えあいながら
街を育てる

アトリエに続く街並み

「毎年秋に、『アートリンク』っていう、街じゅうで展開するアートのお祭りがあるんです。私も参加してるんですが、それにある年、ベンチを造るアーティストが参加したんです。彼はベンチは憩いの場でもあるけど交流の場でもあるっていうんですね。ひとり座ればもうひとり座る。会話が弾む。彼はアートを使ったコミュニティづくりということをとことん考えて、ベンチ造りにたどり着いたんです。私はそれに大感激して、ここにベンチを造りました。お年寄りが座って話をしていたりすると、とても嬉しいですね。私も毎日このベンチで日なたぼっこしたり読書したりしています。声をかけてくれる人もいて、座っているだけでいろんな接点ができますよ」

アランさんが好きな玉林寺のたたずまい

地域に向けたアランさんの活動はこれだけではありません。アトリエで古典芸能の能の公演を行ったり、街をまるごと1軒の家に見立ててあちこちで「床の間展示」を行うイベントを開催したりしています。またこの街には、アートリンクを始めとするイベントや、江戸三大祭りのひとつである根津神社の例大祭など、コミュニティの輪が広がる機会が多くあります。もちろん、毎日の買い物で地元のお店の人と触れあうのだって、立派なコミュニティ活動です。

繪処アランウエスト

アランさんは「社会は織物のようなもの」ともおっしゃいました。いろんな色をした糸=人間が交わることで、価値のある織物=社会が育っていきます。この街は東京に広がる豊かな森。そこで今日も、美し く深みのある、錦の織物が織られています。

写真:薮崎めぐみ

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※掲載の情報は、2019年9月時点の情報です