井の頭公園に代表される豊かな自然と都会の利便性がほどよく融合し、多くの人を引き寄せてきた街・吉祥寺。
今この地では、水と緑の再生による新たな街づくりが動き出しています。
これからの暮らしと環境の調和に向けて、どんな変化が起こりつつあるのでしょうか。
吉祥寺の新しい風をご紹介します。
吉祥寺の街と井の頭公園をつなぐ七井橋通り。電線の地中化で美しい景観とにぎわいの街が実現した。
世代を問わず人気の「住みたい街」、吉祥寺。人々がこの街に憧れるのはなぜでしょうか。その理由をたどっていくと、一つの大きな存在に気づきます。街の中心に位置する、井の頭公園(正式名称:井の頭恩賜公園)です。
日本最初の郊外型公園として大正6年に開園した井の頭公園は、豊かな自然に触れ合えるほか動物園やスポーツ施設も有する憩いの場。吉祥寺の繁華街や住宅街に接する場所にありながら緑に触れられるオアシスとして、時代を越え親しまれてきました。広大な敷地には、かつて武蔵野一帯に広がっていた豊かな森を彷彿とさせる環境が残されており、春の桜や秋の紅葉など四季の移り変わりも楽しめます。これほどの自然が都会と隣り合っているところに、吉祥寺のユニークな魅力があります。
こうした水と緑の環境をさまざまな形で残そうとする動きは、今、井の頭公園を飛び出て街全体に広がっています。その取り組みの一つが、吉祥寺駅北口のショッピングセンター『コピス吉祥寺』の屋上にある『吉祥空園sora』。広さ約660㎡の庭園に、武蔵野の自然を特徴づける雑木林や里山が50種類以上の植物によって再現されています。水やりも水道水ではなく溜めておいた雨水を使うなど、自然の状態をできるだけ活かす工夫をしています。
四季折々の情景を見せてくれる園内には、木立を囲むようにウッドデッキやベンチ、カフェスペースが配置され、家族連れや友人同士、一人で読書にふける人まで、思い思いの過ごし方が楽しめます。子どもたちにとっては、緑の中で遊びながら地域の自然について学べる場にもなっていて、都市緑化機構が選ぶ「都会のオアシス」にも認定されました。
吉祥寺の豊かな環境は、これまでも多くの人々に愛されてきました。昭和初期には太宰治や山本有三など多くの作家がこの 地に居を構え、独自の文化が育まれていきました。その後も文学・映画・音楽など中央線カルチャーの中心地として発展を続けています。
そんな吉祥寺の街には、いつも多くの人を引きつけているふたつの通りがあります。ひとつは街の中心部から井の頭公園の中まで縦断する吉祥寺通り。沿道には井の頭自然文化園や三鷹の森ジブリ美術館があり、焼き鳥屋の「いせや総本店」などの老舗と新しくできたカフェが調和する吉祥寺らしい街並みが広がります。
もうひとつは、吉祥寺駅の公園口を出て、丸井の角を曲がり、まっすぐ井の頭公園に続く七井橋通り。エスニック雑貨のお店やギャラリーなどが並び、歩いていて楽しみが尽きません。他にも吉祥寺には個性のある通りが多く、知らない道に入っていくたびに発見があります。
井の頭公園通りに昨年の10月に開店したのが写真集専門書店「ブックオブスキュラ」。店内には、青山Book246や神田の古書店で審美眼を磨いた店主がセレクトした国内外の写真集が並んでいます。写真展やトークイベントも定期的に開催。展示作品に合わせたコーヒーを販売するなど、さまざまな写真の楽しみ方を教えてくれるお店です。プロの写真家からご近所の常連さんまで、誰もが写真集を眺めながらゆったりとした時間を過ごせるコミュニティスポットになっています。
井の頭恩賜公園は、大正6年に開園。園内は、井の頭池、自然文化園のある御殿山、運動施設のある西園、そして西園に隣接する第二公園の4区域に分かれている。
井の頭公園の中心で満々と水をたたえる井の頭池は、古くから豊富な湧水のあった美しい池。江戸時代にはここからはるか 江戸の市中にまで上水道が引かれていました。この存在をなくして、井の頭公園の景観を語ることはできません。
そしてこの池を舞台に、「吉祥寺をもっと魅力のある、豊かな環境の街にしたい」と始まった活動が「かいぼり」(池の水を抜いて清掃したり池底を乾燥させたりする作業)です。井の頭池は1960年代に周囲の開発の影響で湧水が枯渇し、一時期水質も悪化してしまいました。そんな池の水質浄化と、生態系を維持するための外来種駆除を目的に、2013年に最初の「かいぼり」が行われました。その後2015年と2017年にも実施され、水質浄化の効果が目に見えて現れるようになりました。
井の頭池には、日本固有の藻類で絶滅危惧種でもある貴重な水草「イノカシラフラスコモ」が元々自生していましたが、水質の悪化によりこの池では絶滅したと考えられていました。それが「かいぼり」の後、約60年ぶりに復活したのです。
こうした取り組みを引っ張ってきたのが、「よみがえれ!! 井の頭池!」運動という草の根の活動。その中心人物である田中 利秋さん(井の頭かんさつ会・代表)は、「これほど大きな公園では画期的ともいえる『かいぼり』が実現したのは、井の頭池の復活を願って自ら行動を起こした吉祥寺の街の人々が大勢いたから」と語ります。
30年ほど前に田中さんは、井の頭公園の環境に魅了されて吉祥寺に移り住んできました。「もともと自然が好きで、大きな公園のある街に住みたいと思っていました。都心へのアクセスが良いのにこんな好環境がそばにある街は、なかなかないと思います」。その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと「井の頭かんさつ会」を2005年に作りました。はじめた頃は人も活動費も少なかった会ですが、次々と応援する人が現れ、ずいぶん助けられたといいます。
井の頭池の澄んだ水と生態系を守るために田中さんたちが大切にしているのは、仲間を作ることと人を巻き込むことです。「豊かな自然が守られている街というのは、暮らしている人たちの環境への関心もやっぱり高いのだと思います。それも一人や二人ではなく、地域の団体や行政も含めてみんなが地元の自然に愛着を持っていないと、特に都市に隣接する公園では美しい環境を維持することはできません。井の頭池の『かいぼり』も、地域の人たちや団体が力を合わせて初めて実現できたのです」
井の頭かんさつ会では、月に1回のペースで季節ごとにテーマを設け、公園内で自然観察会を開催しています。テーマは「花」「変形菌」「夜の生きもの」などさまざま。普段とは違う視点で井の頭公園の自然に触れて、発見ができる機会として、参加者がすぐに満員になる人気のイベントです。
5月6日に開催された「156回井の頭かんさつ会」では、「かいぼり後の井の頭公園の野鳥」をテーマに、井の頭池や小鳥の森を散策しました。池の水が澄んだことで、水草を肉眼で見ることができ、さらに池の底には野鳥の餌になる水生昆虫やエビの姿も。かつてはこうした生き物が外来魚によって食べられてしまい、鳥たちの餌が不足して繁殖ができない状況すらありました。それが「かいぼり」で外来魚を駆除したことで、今ではカイツブリたちが子育てのために巣作りをする姿も見られるように。「こんな光景に出会えるのが何よりも嬉しい」と田中さんは笑います。
この日の「かんさつ会」では、御殿山の雑木林で、なかなか会えないアオゲラも発見。この季節ならではの野生の鳥たちのハーモニーがたっぷり楽しめました。
こうして井の頭公園の自然にふれると新鮮な感動があり、たくさんの命を感じて心が豊かになっていきます。和やかな雰囲気の「かんさつ会」の中で、今まで気づかなかった自然への興味がわき、水や緑、生き物たちに対する見方や距離感も変わっていきます。その経験を通して公園に対する愛着、そして吉祥寺の街に対する愛着が深まり、豊かな環境を守ろうというコミュニティが自然と形づくられていくのです。
2017年に開園100周年を迎えた井の頭公園は、水と緑の再生によって、都市と自然が調和する一つの理想形として今また注目を集めています。そして先に触れた『吉祥空園sora』のような緑化活動や、七井橋通りなどで進められた電柱の地中化、街路樹整備の取り組みなど、環境と共存する街づくりは吉祥寺全体を包む流れになっています。
人が積極的に関わることで環境を守り、その美しい自然を身近に感じながら日々の暮らしを送る新しいコミュニティのモデルとして、吉祥寺はこれからも多くの人を引きつけていくことでしょう。
写真:藪崎めぐみ
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※掲載の情報は、2018年5月時点の情報です