池袋の隣に、都会のオアシスのような街があります。椎名町。穏やかな空気が流れる、誰もがほっとできる街です。しかしのどかなだけではありません。大正時代から多くの芸術家の拠点となってきたこの街は、今も変わらずクリエイティブで、いつも街のあちらこちらで何かが起こり、新しい出会いがあります。
椎名町は池袋から西武池袋線で1つ目とは思えない穏やかで風情のある街。寺社が多いのがその理由のひとつでしょう。古来からお寺や神社はコミュニティの核となってきた場所ですが、駅北口の目の前に鎮座する古刹「金剛院」は椎名町のコミュニティの一大拠点です。
フリーマーケット、ヨガ教室、コンサート、子ども向けの科学教室など気軽に参加できるイベントが多数開催され(コロナ禍を考慮して一部のイベントを休止中)、交流の輪が広がっています。境内には気軽に立ち寄れるカフェもあります。
北口界隈はたくさんの商店が並ぶ下町的なショッピングエリアです。小規模で親しみやすい個人商店が多く、普段の生活に必要なものは何でも揃うこのエリアでは、笑顔と共にコミュニティの輪も広がっています。昔から支持されてきた老舗に加え、近年は若い店主が開いた新業態の店や施設が増えてきました。かつてのとんかつ店を改装した、レンタルキッチン&ゲストハウスの「シーナと一平」、銭湯寄席やギャラリーが評判の「妙法湯」などの新しい試みも。また「マンガの聖地」と呼ばれる椎名町には関連モニュメントや作品が多く展示され、ギャラリーも点在し、アートに触れる機会が多くあります。
このクリエイティブな雰囲気は最近始まったものではありません。1930〜40年代の椎名町界隈にはアーティストのアトリエが並び、「池袋モンパルナス」と呼ばれていました。また戦後は後に巨匠となったマンガ家たちが「トキワ荘」で暮らし、この街で表現の地平を切り開いて行きました。椎名町は昔からクリエイティブな街だったのです。
創造には安息も必要です。桜の名所として知られる「椎名町公園」など家族でゆったりと過ごせる公園や緑地も椎名町には多くあります。少し足を延ばせば「目白の森」や「目白庭園」も。自転車で出かけるのに好適です。そしてより多くの刺激が欲しいときは池袋へ。目白や要町も散策圏内です。
オアシスでは、その恵まれた環境の中で人々が交流し、文化を生み、育てて来ました。落ち着きとともに暮らしやすさも備え、盛んな交流と感性への刺激に満ちた椎名町は、真に東京のオアシスといえる街です。
©豊島区
マンガは日本を代表する文化ですが、そのルーツの一つは椎名町にあります。手塚治虫、藤子不二雄Ⓐ、藤子・F・不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎…。彼らは椎名町のアパート「トキワ荘」で生活しながら作品を制作し、切磋琢磨しながらマンガの可能性を開拓していきました。トキワ荘は1982年に解体されましたが、すぐ近くにトキワ荘を再現した施設が昨年開館しました。「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」です。2階建てで、1階はマンガラウンジと企画展示室、2階には1960年代のトキワ荘の様子が再現されています。
「ミュージアムの外観や2階の居室の再現は、先生方本人にインタビューしたり、作品でのトキワ荘の描写や当時の写真を参考にしたりして、忠実に行いました。さっきまで先生方がこの部屋でマンガを描いていらしたように感じていただけたら嬉しいです。将来的にはマンガ家体験なども提供できたらと思っています」
そう説明してくれたのは、広報担当の小林千晴さん。「小学校の図書館で『ジャングル大帝』と『火の鳥』を読んで感動しました。まさか自分が将来こんな仕事をするなんて、当時は思いもよりませんでしたね」と笑います。
ミュージアムは2020年に開館したばかりですが、開館までには長い道のりがありました。実際のトキワ荘が解体されたのは1982年。86年にトキワ荘が登場するテレビドラマが制作され、96年には映画『トキワ荘の青春』が公開。それを期に地元で記念館設立の機運が高まり、その後の署名活動では4000名もの署名を集めました。しかし当時の豊島区の財政には余裕がなく、すぐには実現しませんでした。ですがそこで断念しなかったのが素晴らしいところ。記念碑を建てたり、キャラクターモニュメントを設置したり、イベントを開催したりと地元有志と一緒に、少しずつ少しずつ活動を続けました。そして2020年7月、ついに開館にこぎ着けたのです。
「地元商店街の方々が中心の『トキワ荘協働プロジェクト協議会』さんには本当にお世話になっています。私たちを引っ張ってくれている、と言った方がいいかもしれません」
ミュージアムの他にも、6000冊のマンガを自由に読める「トキワ荘マンガステーション」や「トキワ荘通りお休み処」、各マンガ家のモニュメントなど、椎名町にはマンガに因んだものがたくさんあります。その企画から運営、掃除などの地道な活動まで、地元の人たちが積極的に関わっています。
ミュージアムの目的は、マンガやアニメの文化を次の世代に伝えること。ミュージアムは区立小中学校の校外学習を積極的に誘致。たくさんの子どもたちが見学に訪れています。
「地元の子どもたちがトキワ荘についてとても詳しいので、こちらがびっくりしちゃうんです。開館1周年の企画で今年7月に区立の小学校と幼稚園などの子どもたちにアトムやドラえもんなどの短冊の塗り絵と願い事を描いてもらったんですが、3000枚以上集まったんですよ」
椎名町では、現代のトキワ荘を目指し、マンガ家の卵に部屋を提供して街ぐるみで支援する「紫雲荘活用プロジェクト」などの活動も行われています。文化を消費するのではなく、育てる。そんな未来志向の活動が行えるのも街ぐるみだからでしょう。「この街の皆さんには自分たちの街を楽しんでいる感じがすごくするんです」と小林さん。マンガの力で人々が結びつき、発展する椎名町です。
写真:薮崎めぐみ
協力:豊島区立トキワ荘マンガミュージアム
池袋へ1駅3分、西武池袋線「椎名町」駅徒歩7分。3LDK70平米超中心、全32邸の低層レジデンス誕生。
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※掲載の情報は、2021年8月時点の情報です